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2010年8月12日 (木)

ネットによる大衆の小衆化

 Cass Sunstein 氏の著書「インターネットは民主主義の敵か」には集団分極化によるサイバーカスケードの危険性など、インターネットに対する数々の警鐘が鳴らされている。

 インターネットは多くの人をつなぎ合わせ、大量の情報を与えてくれるメディアである。しかしその一方情報が過剰に供給されることで、人々は自分にたいして心地よい情報しかとらないようになり(デイリーミー現象)、また自分にとって心地よい人間としかつながらなくなるようになる。これにより大衆は心地よい情報ごとに集団化し、グループ討議を通じてリスキーシフトを起こす。これは討議を疎外し民主主義社会をこわすのではないかというのが氏の主張である。

 ネットによる大衆の分断化(小衆化)は実際の問題として進んでおり、様々な場面でその問題に当たることがある。リスキーシフトが起こることによるサイバーカスケードは”炎上”とよばれる執拗な攻撃行動になって現れるし、ネット上の意見が保守化する”ネット右翼”現象などもネットが作り出した小衆の1つといえるだろう。

 しかし、多くの場面でこの危険性を考慮しないケースが後をたたない。逆に小衆をあつめて「成功」とみなすケースもあるほどである。小さい商店などではそれほど大量の動員が必要なわけでもなく、また余計なマイナス情報を集める必要も無いので「小衆」を集めるだけで十分なのだが、それなりの規模・責任のある組織・人ではそうもいっていられない。さらには組織のリーダーが自らに都合の良い意見だけを集めてしまい、選択を誤ってしまうケースも散見される。

 典型例として揚げられるものが2000年11月の加藤の乱である。2chなどのネット利用に長けていた加藤氏は自身のホームページに寄せられる意見、また2ch上の氏への支持意見を見て「これが世論である」と勘違いし倒閣運動へ走ったとされている。しかしそれはネット上のゴクゴク小さい小衆の意見であって”世論”でもなく、また小衆意見に同意する議員も少なく、乱は不発に終わった。

 人は自分に心地よい情報により積極的に接する傾向があるのだから、加藤氏のHPを見ている時点で彼の支持者である確率が高い。また2chなどのスレッドにしても森内閣に対して不支持の人が集まっている場での議論をみれば加藤氏の行動に支持があつまるのは当然で、それを持って自分が世論に支持されている勘違いしてしまうのはやむをえないが、悲しい現実である。

 逆に自分に対して耳障りな意見などを排除してしまうのも人の傾向である。twitterなどでは有名人たちが自分への耳障りな意見をいてくるものに対して、一時は相手をするもののやがて「ブロック」してしまうことはしばしばであるし(どうも無視するということが出来ないらしい)、ブログ等でも攻撃が恐いという理由でコメント欄を閉じてしまうことも良く見かけることだ。自らに不利な情報に耳をふさぎ、心地よい情報だけを得る。戦前の日本の失敗そのものがいままたネットで繰り返されているのだから、人間はあまり進歩していないのかもしれない。


 これらの問題を防止するためには、1つは情報をネットに偏らずに広く集める努力、またネット上の議論はしばしばリスキーシフトを起こすという認識、また賛否が分かれそうなときはネット上で賛否を闘わせること自体はサイバーカスケードを起こす要因となるので賛否を分けて意見収集・議論(スレッドを分けるなど)をして不要な攻撃行動をさせないなどが必要になる。

 ネットによる擬似的な直接民主主義に対する期待は大きいが、結論から言えば今はリスクを洗い出す段階であり、実現性は低い。いくつかのトライアンドエラーを繰り返した上に民主主義の敵ではないインターネット利用の方法が示されるであろう。

 
 

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